認知症患者さんに特徴的な体温このページを印刷する

睡眠・覚醒リズム障害は、体温や「睡眠ホルモン」といわれるメラトニン分泌のリズムの異常とともに起こります。

監修:三島和夫(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部長)

睡眠・覚醒パターンがくずれている認知症患者

BPSDのなかでも家族の負担が大きい夜間不眠

認知症に伴う行動・心理症状をBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)といい、具体的には易刺激性、焦燥・興奮、脱抑制、異常行動、妄想、幻覚、うつ、不安、多幸感、アパシー(無気力・無関心)、夜間行動異常、食行動異常などが含まれます。これらBPSDのなかでも、夜間のはいかい行動は家族の負担が大きく、受診する直接の原因にもなっています。

認知症で現れることの多い不規則型睡眠・覚醒タイプ

睡眠障害の国際分類で、「概日リズム睡眠障害」という一群があり、その中に「不規則型睡眠・覚醒」というタイプがあります。これは健常人では24時間リズムで昼夜交代に繰り返される睡眠・覚醒のパターンがくずれ、睡眠と覚醒がさまざまな時間帯にバラバラに現れる病態で、認知症患者では、よくみられます。では、このような不規則型睡眠・覚醒タイプは、なぜ現れるのでしょう?

不規則な睡眠・覚醒パターンを示したアルツハイマー病患者2症例

加齢で変化する睡眠・体温・メラトニン分泌

認知症でなくても、加齢とともに睡眠パターンは変化する

若年成人から老年期への加齢に伴い、睡眠に変化が現れることはよく知られています。加齢に伴う変化としては、寝てから睡眠に入るまでに時間がかかったり、睡眠の効率が低下するなどの現象が起こります。夜中や早朝に目が覚めたり、深い睡眠が減少するといった傾向もみられます。また日中の覚醒度の低下により、昼寝が増加します。
加齢に伴う変化は体温にも現れ、夜間の深部体温が下がりにくくなります。また、入眠してまもなく最低体温が現れ、その後は少しずつ体温が上昇する傾向がみられます。これは、高齢者が早く床につき、夜中に目を覚ますことと関係しているものと考えられます。
「睡眠ホルモン」といわれるメラトニンの分泌状態にも、加齢変化は起こります。若年者では夜間のメラトニン分泌が盛んであるのに対し、高齢者ではそのピークが低くなっています。
このように加齢とともに、睡眠だけでなく、体内時計による生体リズムそのものが変化することが分かります。

若年者および非認知症高齢者の生体リズム(睡眠・覚醒、体温、メラトニン分泌)

アルツハイマー病と脳血管性認知症では異なる体温のパターン

非認知症、アルツハイマー病、脳血管性認知症の体温と体動を記録

同じ介護施設に入所中の高齢者で、非認知症、アルツハイマー病、脳血管性認知症患者について、連続6日間にわたる活動・休止リズム(体動)、および深部体温リズムを記録しました。非認知症の高齢者では、1日の活動の大部分が昼間の時間に集中し、夜間にはほとんど体動がみられず、正常な睡眠・覚醒パターンとなっています。また体温も昼間は高く夜は低いという明瞭なリズムで推移しています。

活動・休止リズムは不規則なのに体温リズムは正常なアルツハイマー病

夜間にも多くの体動がみられ、昼間にも休んでいるという、不規則な活動・休止リズムがみられます。しかし深部体温は正常なリズムを維持しています。

活動・休止リズム、体温リズムともに不規則な脳血管性認知症

アルツハイマー病と同様、不規則な活動・休止リズムがみられます。深部体温は高低差が小さくなり、リズムも不明瞭になっています。脳血管の障害によっては体温調節にかかわる視床下部の働きが制限されている可能性も考えられます。

代表的な非認知症高齢者、アルツハイマー病患者、脳血管性認知症患者の深部体温リズムと活動・休止リズム

「寝たきり」は生体リズムをさらに崩壊させる

歩いて生活していた認知症患者が「寝たきり」になったとき、深部体温リズムと活動・休止リズムがどのように変化するか

左側の脳血管性認知症患者では、自立歩行可能期に、すでに活動・休止リズム障害とともに、深部体温リズムの不規則化がみられていましたが、寝たきり状態に移行すると、活動・休止リズムはさらにくずれ、同時に深部体温も最高・最低の出現時間がまちまちで、1日のリズムが著しく障害されてきました。
右側のアルツハイマー病の患者では、活動・休止リズムは崩壊しましたが、深部体温については、高低差は接近したものの、1日のリズムは維持されていました。

自力運動が可能であった脳血管性認知症患者、アルツハイマー病患者が寝たきり状態に移行した後の深部体温リズムと活動・休止リズム

監修者紹介

三島和夫(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部長)
1987年、秋田大学医学部卒業。同大教授を経て2002年より米国バージニア大学時間生物学研究センター、スタンフォード大学医学部睡眠研究センターに留学。2006年から現職。2011年4月から脳病態統合イメージングセンター・画像診断治療研究部部長を併任。平成2年エルウィン・フォン・ベルツ賞、平成14年日本睡眠学会研究奨励賞等を受賞。

三島先生からのメッセージ

認知症は、夜間や早朝に目覚めて、「はいかい」するなど、ご家族の負担の大きな病気です。このような睡眠・覚醒リズム障害は、体温や「睡眠ホルモン」といわれるメラトニン分泌のリズムの異常とともに起こります。
認知症かもしれないと感じたら、早期に受診することが大切です。その上で、生体リズムを考えた生活上の工夫をすることも、治療の助けになります。

三島 和夫先生

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