睡眠障害が招く「うつ」と体温の変調このページを印刷する

体内時計の変調による「うつ」とは。

監修:内山真(日本大学医学部精神医学系教授)

ヒト体内時計の周期は24時間より長い

光を浴びないと、体内時計は24時間周期にならない

体内時計は体温や睡眠、ホルモンの分泌などをコントロールし、1日のリズムを作っています。これを「概日リズム」といいます。

ヒトの体内時計は1日24時間のリズムに合っているようにみえますが、実は24.5〜25時間のサイクルであることが分かっています。実験でヒトを自然の光が入る部屋で生活させると、きちんと24時間ごとの概日リズムを維持しますが(グラフの青地部分)、外光を遮断し、時計やテレビなど時間の手がかりになるものを取り除いた状態で生活させると、睡眠時刻が毎日1時間ずつ遅れ、1日を約25時間のリズムで過ごすことが観察されます(グラフの赤地部分)。

1日にほぼ1時間ずつ遅れる体内時計を正しい時刻に合わせるために、光は重要な役割を果たしています。もしヒトが外の光を浴びない生活をしていたら、ヒトの体内時計は、24時間に修正されることはないため、日の出、日の入りを基準にした毎日の生活サイクルを維持することはできないのです。

光が入らないところでは人間は1日を約25時間として生活する

朝の光を浴びないと体温のリズムを正しく保てない

朝の光だけが体内時計を正確に合わせる

自然の光がヒトの体内時計を24時間に修正することは分かりました。では、体内時計が修正されるのは、1日のうち、いつなのでしょう?

実験で25時間の概日リズムを示しているヒトに、朝日に近い強い人工光をあてると、光をあてた時刻に応じて、次に眠りにつくタイミングが変わります。「朝」の時間帯に光をあてると、入眠のタイミングが早まり、24時間周期に近づきます。反対に「夜」の時間帯に光をあてると、入眠のタイミングは遅くなります。

このことから、日常生活のなかでは、朝の光が毎日約1時間ずつ体内時計を早めることにより、概日リズムを24時間に合わせているのだと考えられます。朝の光を浴びる機会のない夜型生活の人は体内時計を合わせる機会がないので、睡眠障害を起こしやすくなってしまいます。

脳が光の信号を受けて体内時計を調節

ヒトを含む哺乳類では、体内時計の仕組みは脳内の視交叉上核(しこうさじょうかく)にあります。
目から入った光の情報がここに伝わると、「朝」であることを感知し、25時間で動こうとしている体内時計を24時間のリズムに調節してくれるのです。

体内時計のしくみ

体内時計を合わせるタイミングは早朝の最低体温から数時間

日が高くなってからの光では体内時計を合わせられない

ヒトの体温は、夜になると就寝前から下がり始め、安らかな睡眠に入る準備をします。逆に朝の体温は、夜明けより前に最低となりますが、起床時間の約2時間前から上昇をはじめ、しっかりと朝の活動に備えます。

光を浴びることで体内時計を合わせることが可能な時間帯は、普通は夜明け前に出現する「最低体温」の直後から数時間に限られることがわかっています。この時間帯は、通常は夜明けから「朝日」といえる日差しがある間になります。 日が高くなってから、いくら日光を浴びても、体内時計を正常に合わせることはできません。
1日の体温の動き

夜型生活が「うつ」と関連

体温リズムの変調をともなうタイプの睡眠障害

朝の光をあびる機会のない夜型生活の人がなりやすいのは、眠っている時間帯が慢性的に遅れる概日リズム睡眠障害です。 普通の生活をしている人は、夜明け前に最低体温となり、その直後数時間の間に起床して朝日を浴びますから、体内時計を正常に合わせることができます。
しかし遅寝・遅起きの人は、最低体温となってからもずっと寝ていて、日が高くなってから起きだすので、体内時計を正常に合わせることができません。そのため体温の変動リズムも遅れるようになり、最低体温が夜明けごろになる場合もあります。起きて活動するためには、少し体温を高めておく必要がありますから、努力して早起きしようとしても眠くて起きられません。すると起床するのがさらに遅れていくため、どうしても夜型の生活から抜け出すことができなくなってしまいます。

夜型生活と体温・体内時計

概日リズム睡眠障害は「うつ」の大きな誘因

このような概日リズム睡眠障害になると、「うつ」などの気分障害が多くみられるようになります。交代勤務の人たちに「うつ」のような症状がみられることは以前から指摘されていましたが、いまは生活全般の24時間化が進んでおり、夜中にテレビをみたり、夜遅くまで携帯電話やパソコンを使う習慣も一般化しています。うつ病患者数が増え続けている現状と、このような生活習慣の変化は無関係ではなさそうです。

体温が高くなる「うつ」の患者

夜の体温も高いため、睡眠で身体が回復しない

うつ病の患者では、深部体温が高くなっていることが、わかっています。とくに、本来は体温を下げて身体を休める夜の時間帯に体温が下がらなくなっているのが特徴です。身体が本当の意味での休息モードに入れないので、うつ病の人は、うまく休むことができず、回復感のない睡眠になってしまうことが考えられます。

うつ病を治療すると体温が下がる

このグラフは1日の体温の動きを示しています。赤い実線で示されたように、うつ病では夜間の深部体温が、黒い点線で示された健康成人と比べ全体に高くなっています。とくに夜間睡眠中の体温の下がりかたが悪く、充分に身体を休めることができなくなっていることが考えられます。うつ病では、健康成人と比べ、昼間と夜間の体温差、つまり体温のメリハリが全体になくなっています。うつ病の治療後は青い実線で示すように、夜間に深部体温が下がるようになり、点線で示した健常人の体温とほとんど同じパターンになることがわかります。

うつ病患者の体温は1日中高い

監修者紹介

内山 真(日本大学医学部精神医学系教授)
1954年、横浜生まれ。1980年、東北大学医学部卒業。 1991年、国立精神・神経センター精神保健研究所。1992年、ドイツ ヘファタ神経学病院睡眠障害研究施設に留学。2006年より現職。

内山先生からのメッセージ

近年増加しているうつ病は、睡眠障害をともなうことが多く、体内時計とも深く関係していることがわかっています。体温は睡眠と同じように体内時計のコントロールを受けており、うつ病の研究には欠かせない要素となっています。
うつ病は生活リズムをよくすることで、ある程度予防できます。うつ病に備える生活習慣を身につけて心身の健康に役立てていただければ幸いです。

内山 真先生

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