体温調節機能が若者とは違います

公開日2021.08.30

※当コンテンツの内容は2021年7月時点の情報となります。

加齢にともなって暑さや寒さに対しての反応も変化していきます。注意すべき点を知っておきましょう。
監修:永島 計 早稲田大学人間科学学術院 体温・体液研究室 教授(医師、博士(医学))

暑さ、寒さに対する反応が弱くなります

高齢者は発汗しにくくなります

ヒトには、暑ければ体から熱を放出し、寒ければ体から熱が逃げないようにし、さらに熱をつくる体温調節機能が備わっています。暑さに対しては、発汗や皮膚血管の拡張が重要な役割をになっています。
しかし、高齢者は一般に、体温の調節に関わる生理機能が低下しています。さらに、暑さ、寒さを感じて適切な衣服を選んだり、空調をつけたりする機能も低下していることが示唆されています。
具体的には、暑くなった時に汗腺が汗を分泌するタイミングが遅くなり、出せる汗の量も減少します。また、皮膚に分布している、汗をかく能力のある汗腺(能動汗腺と呼ばれます)の数も、加齢とともに低下していきます。皮膚への血液の流れは暑さとともに増加するものですが、この力も発汗と同様に、高齢者では低下します。
また、高齢者で多くみられる、一部の高血圧の治療薬の服用や、心臓の機能の低下も皮膚血流の反応を弱めてしまいます。
さらに、寒い環境では、体で熱をつくる能力の低下や筋肉量の減少による断熱効果が低下するため、高齢者は低体温になりやすくなります。

熱中症にかかりやすくなります

高齢者の熱中症は屋内で多く発生

熱中症の年代別の救急搬送数を発表している消防庁のデータによると、高齢者が全体の49.4%を占めています。また、日本救急医学会の調べでは、高齢者のなかでも年齢が上がるほど発生率が高くなっています。
一方、発生状況も年代による違いが見られます。若年層では屋外での運動中や仕事中に起こることが多くなっています。これに対し、高齢者では自宅をはじめとする屋内での発生が半数以上を占め、屋外の場合でも散歩や買い物といった日常生活でのありふれた一場面で起こる割合が多くなっています。

図1 熱中症による救急搬送者数の内訳(2014年~2020年の6-9月の調査集計)

熱中症にかからないために注意したいこと

こまめな水分補給を

高齢者のなかには、トイレに行くのが面倒だという理由や、口の渇きを感じにくくなっているせいで、水分を十分に摂取できていない人が多くみられます。また、心臓や腎臓の機能の低下から、一度に多くの水分を摂取することが望ましくない人もいます。
高齢者にはこのような特徴があるため、周囲の人が、いつでも水分を補給できるように環境を整え、水分をとるようこまめに勧めることが大事です。それが適切な水分補給につながります。多くの高齢者が炎天下で作業や運動をする場面は少ないと考えられますので、しっかり食事をとることで必要な塩分摂取を行うことができます。しかし、暑い場所での農作業など、多くの汗をかくような場合には、若い人と同じようにスポーツドリンクによる水分と塩分の補給をするほうがよいでしょう。
また、食事に含まれる水分は1日の水分摂取量の40%程度を占めています。1日3食を適切にとるよう心がけることも重要です。

エアコンを活用して室温は28℃以下に

高齢者にはエアコンを嫌う人も多いのですが、風が直接あたらないようにして室温を28℃以下に保ちましょう。部屋に差し込む日光や湿度も影響するので、光を遮る工夫や、室内の温度と湿度が計測できる温度計を設置しておくのも有用です。

周囲の人は高齢者に気を配って

一般に高齢者は体温を調節する能力が低下しているとともに、暑さに対して適切な行動を起こす判断能力も弱くなっている場合があります。
熱中症を防ぐには、室温を適切に保ち、適切に水分を補給することが重要です。また、日射や湿度の影響を受けないようにする工夫も必要になります。高齢者自身が気をつけることはもちろんですが、周囲の人は、高齢者は体温調節能力が低下していていることや、暑さに対して適切な行動がとれない場合があることを理解し、室温に注意したり、タイミングを見はからって水分をとらせたりするなど、気を配ることが必要です。

外出時は日差しをさえぎる日傘や帽子を

高齢者は、夏の炎天下の外出は避けるべきです。日差しがそれほど強くなくても、日傘や帽子などを使ってさえぎりましょう。

寒いと体が冷えやすくなります

「老人性低体温症」を知っていますか?

高齢者は、太って大きく見える人でも、一般に筋肉量が低下しています。このような加齢に伴う筋肉量の低下はサルコペニアと呼ばれ、フレイルと総称される身体機能や認知機能の低下の一因になります。筋肉には代謝による熱の産生や、寒さに対する体の断熱材としての役割があります。また、体の代謝をあげる甲状腺ホルモンの分泌機能も高齢者は低下しています。これらのことは、高齢者が寒さに対して弱いことを示しています。さらに、皮膚の血管の収縮機能の低下も、寒さに弱くなる原因の一つと言われています。

寒い時に体の中心部の体温が35℃以下に下がった状態を「偶発性低体温症」といいますが、高齢者の体温が低くなった時の状況をとくに「老人性低体温症」と呼びます。

低体温症は、高齢者に限らず、行動が緩慢になったり、眠りについたり、意識障害•低下がみられたりします。とくに甲状腺低下症や糖尿病などの基礎疾患のある人は注意が必要です。低体温症は家庭で様子を見ながら回復を望むのは困難で、毛布をかけて体温が低下していくのを防ぎ、ただちに救急車で医療機関に運び治療を受けることが必要です。

監修者紹介

永島 計

早稲田大学人間科学学術院 体温・体液研究室 教授(医師、博士(医学))

1985年京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学附属病院研修医、修練医、大阪鉄道病院レジデントを経て、京都府立医科大学大学院博士課程(生理系)修了。京都府立医科大学助手、YALE大学医学部・John B Pierce研究所ポストドクトラルアソシエート、王立ノースショア病院オーバーシーフェロー、大阪大学医学部助手•講師、早稲田大学助教授を経て、2004年から現職。日本スポーツ協会スポーツドクター、日本医師会認定産業医。

永島先生
からのメッセージ
加齢に伴って、筋肉や心臓、肺、脳などの機能が衰えていくのはよく知られています。これらの機能低下の予防のため、脳トレ、筋トレや散歩の推奨、様々な健康イベントの開催などが行政レベルでもなされています。しかし、体温やその調節機能も加齢とともに変化していくことは意外に知られていません。この体温の変化は高齢者によく見られる、“眠れない”、“寝てもすぐ起きてしまう”などの睡眠障害や、熱中症の被害者になりやすいことにも密接に関係しています。高齢者ご自身や家族、高齢者にかかわる仕事につかれている方々に一読いただき、高齢者の体温の特徴を知っていただき、より健康的な生活を送るための方法の一つとして参考にしていただければ幸いです。
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