食事と学力、体温

朝食の有無で、テストの成績に差が出る!?
午前中の体温が低い夜型人間は、試験に弱い!?
意外な関係に迫ります。

監修:中川八郎(大阪大学名誉教授・医学博士)

朝食を食べると、テストの点数が上がる。

朝のジョギングと朝食で体温を上げ、難関志望校に合格。

私が大阪大学蛋白質研究所にいたころ、高校生くらいの少年がやってきて「先生のおかげで、この大学に入れました」とお礼を言われ、びっくりしたことがありました。話を聞くと、私が雑誌に書いたエッセイで、脳の栄養学の見地から「起床後の軽いジョギングと、朝食をしっかりとることが、入試突破の秘訣」と書いたのを、」忠実に実行したということでした。運動と栄養摂取で朝の体温を上げれば、脳のはたらきが活性化して学習能力が上がることを書いたら、その少年は見事に結果を出して証明してくれたわけです。
少年は、私の指示通りに体温の変化を記録していました。朝の日課をはじめてから1ヵ月半ほどたつと、次第に体がほてってきて、朝食後3時間の体温が37℃を超えるようになりました。しかし「カゼをひいたときのいやな感じとちがって、“やったるぞ”という気持ちが体の奥底から燃え上がってくる」ような感じだったそうです。
こんな実績もあるので、私は受験生諸君に、この方法を「入試突破の秘訣」としておすすめしたいと思っています。

ある受験生の、朝食後3時間目の体温上昇記録

朝食ありと、朝食なしの成績のちがい。

アメリカで行われた実験ですが、20歳代の男女について、朝食を食べた人と、食べていない人の間で、テストの成績を比較しました。朝食はすべて同じ栄養スープを用い、37.7グラムの糖質、12.2グラムの脂質、18.5グラムの蛋白質を含み、熱量は326キロカロリーでした。テストは「空間記憶」と「単語想起」の2種類でした。結果は、両方とも朝食を食べたほうが短時間で答えを出し、圧勝しました。空間記憶のテストとは、りんごやイヌなど16種類の図を配置した絵を見せて、あとで位置関係を思い出させるテストです。単語想起のテストは、15個の単語を2秒おきに読み上げ、あとで思い出させるものです。
日本でも朝食とテストの結果に関する報告はありますが、やはり朝食を食べているほうが成績が良くなっています。

朝食摂取の有無と記憶の関係

朝の脳はガス欠状態。体内時計の命令で、体も朝食を欲しがっている。

ではなぜ朝食を食べないと成績が下がるのでしょうか?その理由のひとつに、朝食を食べないと、脳はガス欠状態になってしまうことがあります。眠っている間、脳は休んでいるものと思われがちです。しかし脳は眠っている間も盛んに活動し、起きている時と変わらないくらいエネルギーを消費しているのが実態です。睡眠中に食事をとる人はいませんから、朝起きたときの脳はガス欠状態になっているのです。したがって、朝起きたら、すぐ脳にエネルギーを補給してやる必要があります。

また、脳の中にある「体内時計」の働きからみても、朝食をとることはきわめて自然であり、重要でもあります。たとえば、目がさめる前の午前4時ごろには、人体の活動を支配する副腎皮質ホルモンの分泌が急激に上昇します。また朝食の前までに代謝関連の酵素が増加していることも知られています。朝は、脳も体も食事による栄養補給を心待ちにしている時間なのです。

体温と、テストの点数の関係。

夜型人間は、午前中の体温が低い。

朝食を食べないと成績が下がるもうひとつの理由は、朝食を満足に食べないのは、夜型人間に多いということがあります。朝型人間と夜型人間の体温変動のグラフを見ますと、朝型人間では起床時の体温も比較的高く、午前中早い時間に急速に体温が上がります。夜型人間は起床時の体温が低く、午前中の体温は低いままで、昼近くになってようやくエンジンがかかり、夜半まで体温は高いままです。

朝型人間と夜型人間の体温上昇率のちがい

午前中の体温が低い夜型人間は、試験に弱い。

こうした2種類の体温の変化が、知的作業の能率にどう反映されるかをテストしたのが、3つのグラフです。夜型人間の午前中は、まことに悲惨です。午前中の計算速度は最低レベルで、手の器用さもほぼ夕方までは朝型にかないません。疲労感については、朝型と夜型は、ちょうど逆のパターンを示しています。 試験が実施されるのは、普通は朝から午後3時ごろまでが多いわけですから、朝型人間は、夜型より圧倒的に有利だといえます。

「ひばり型」(朝型)と「ふくろう型」(夜型)の知的作業能率のちがい

頭のいい子を育てるのに欠かせない朝食。

12歳ころまでの栄養が大切。

頭のいい子に育てたいと思うのは、いつの時代も変わらない親ごころです。ところで、頭のよしあしは、いつごろ決まるのでしょう?じつは誕生から12歳ころまでの育て方が勝負なのです。

<2〜3歳まで>
人間の脳は、2〜3歳ごろには神経細胞の分裂増殖を終え、1500グラムほどまで成長して、成人並みの大きさになります。

<5〜12歳まで>
大きくなった脳に、シナプス(神経同士が連絡する部分)をはじめとする各部分が形成されていくのは、5〜12歳とされます。したがって12歳までの栄養は、体だけでなく脳を育てるためにも大切なのです。

脳は通常、エネルギー源としてブドウ糖を利用しています。そしてブドウ糖を脳に運んで脳の温度を上げるには、良質のタンパク質が必要です。ですから、栄養バランスの取れた朝食を作りましょう。頭のいい子に育てたいなら、くれぐれも朝食抜きなどということはないようにしてください。

最適なバランスを考えながら脂質をとる。

健康な体があってこそ、脳の働きがあるということは、まず前提条件です。健康を維持するには、一部の食品に片寄ることなく、バランスのよい栄養摂取を心がけることが大切です。その前提で、脳を育てるのに適した栄養のとり方についてアドバイスしてみましょう。

<脂質>
脂質の中で、脳に多く存在するのは、n-6系とn-3系の脂肪酸です。n-6系は、ごま油などの植物油やナッツ類に多く含まれており、脳の温度を上げて、脳の働きを活性化します。n-3系は、まぐろ、さば、いわしなどに多いDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などで、思考や判断のもとになる脳内の情報伝達をスムーズにします。この二つの系統の脂質をとる割合は、n-6系を4に対して、n-3系を1が最適とされています。

ところで、タマゴなどに豊富に含まれているホスファチジルコリンは、記憶力を向上させる脂質と考えられています。ホスファチジルコリンは、脳に達すると、記憶能力に関与するアセチルコリンという神経伝達物質の材料になります。単純なタマゴかけごはんなども、立派な記憶力アップのメニューということができます。

糖質は脳のただひとつのエネルギー源。

<糖質>
人間は、いろいろな栄養をとりますが、このうち脳がエネルギー源にできるのは、ブドウ糖だけです。ですから脳は、ひどい偏食家といえます。脳が急速に発達する6歳の時期までの脳は、おとな以上にブドウ糖の供給を必要としているので、充分に糖質を食べさせてください。ブドウ糖の摂取源のメインは、ご飯などに含まれるデンプンです。

<タンパク質>
脳はタンパク質からできています。脳内で情報のやりとりに使われる脳内伝達物質の材料になるのもタンパク質です。脳のエネルギー源であるブドウ糖を脳に運ぶのにもタンパク質が必要です。タマゴ、魚、肉、牛乳など、必須アミノ酸をバランスよく含む良質の食品が頼りになります。

脳にとって効果的なアミノ酸にチロシンがあります。たらこ、チーズ、かつおぶし、たけのこなどに含まれるチロシンは、神経伝達物質を合成する材料になり、「やる気」を引き出してくれます。また肉類に豊富なトリプトファンには、精神を安定させる働きがあります。ただし、糖類といっしょにとってインスリンの分泌を高めないと、脳への到達率が鈍くなります。

監修者紹介

中川 八郎(大阪大学名誉教授・医学博士)
1931年、大阪市生まれ。1956年、大阪大学医学部卒業後、大学院医学研究科で栄養生理学を専攻。専門は脳のエネルギー代謝。修了後は、大阪大学蛋白質研究所の教授を経たのち、所長に就任。現在は大阪大学名誉教授。国際東洋医療学院 名誉学院長

中川先生からのメッセージ

朝食は、1日の最初の食事という以上に大切なものです。とくに毎日成長を続ける子どもたちにとって、体の成長に欠かせないばかりでなく、「朝食が子どもの脳を育てる」とさえいえるように感じられます。バランスのいい朝食をつくり、元気で頭のいいお子さんに育ててあげてください。

中川 八郎先生

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